雪の結晶は自然が作り出す美しい造形の一つ。
それをモチーフにして
家にこもりがちな冬の暮らしを
楽しく演出する和紙の飾りが現れた。
子供のてのひらほどの雪の結晶。ふわふわとした綿毛のような質感は、雪の冷たさよりは、むしろぬくもりを感じさせる。
柔らかな手触りのこの「スノーフレーク」は、美濃和紙でできた薄いシートである。濡らして窓ガラスに貼り付け、窓辺の装飾にしたり、糸で吊り下げてモビールやオーナメントとして使ってもいい。
この製品の製造販売を行っているのは、美濃紙の産地、岐阜市に位置する家田紙工株式会社である。明治時代創業の老舗企業だが、常に時代の風を取り入れた新作を発表し続け、和紙業界で独特の存在感を放っている。
このスノーフレークは同社の「a piece of natural paper」シリーズの一つ。シリーズにはほかにもグリーティングカードやタピストリーに使える大型の商品もラインアップし、いずれも伝統的な美濃和紙の製法にのっとって、職人が一枚一枚手漉きしている。
これらを作るには型紙を使う。スノーフレークの場合は、漉き桁(すきけた。和紙を漉くときに使う布を張った四角い枠)の上に雪の結晶をかたどった型紙を置き、コウゾなどから作られる和紙の原料を流し入れる。その後、漉き桁を動かして不要部分を濾すと、型紙に沿った形が出来上がる。
モチーフのデザインは、岐阜市内に住んでいたロシア人の女性デザイナーが担当。母国のニューイヤーデコレーションをイメージしながら考案したという。
しかし、レースのように抜き模様のある繊細なデザインと、和紙の特徴である耳(端の部分)の毛足の美しさを両立させるために、製造の現場では大変な苦労があった。
「美濃和紙は栃木県産の那須楮(なすこうぞ)と地元の美濃楮の両方を原料として使いますが、那須楮の方が繊維が華奢で、このような繊細な抜き柄を作るのに向いているんです。そこで那須楮を多めにしながら両者の配分を何度も変えて試し、抜き柄を作るのに適した配合を見つけるのが大変でした。
また、型紙の抜き穴が小さすぎるとそこが和紙の毛足で埋まり、抜き穴にならなくなってしまう。何度も試すうちに、幅5ミリ以上の間隔をとればよいとわかったのですが、初めのうちはその加減がつかめなくて、型紙を300枚以上作り直しています」(家田紙工社長・家田学さん)
その甲斐あって発売後の反響は好調だ。もともとヨーロッパ市場での販売を目的として作られたスノーフレークは、今ではフランス、ドイツ、イタリアなどに出荷されている。とくに観光客の多いスイスアルプス付近のスキーリゾートでよく売れているというから、メイド・イン・ジャパンの工芸品が珍しがられているのではなく、雪深い地を象徴するものと見られているようだ。
もっともこうした「昔ながらの和のイメージ」からの脱却は、家田紙工の意図するところでもあったという。伝統産業が革新の連続によって発展してきたことを、身をもって知っているからだろう。
「生活の中に取り込める和紙」の作り手を標榜する同社にとって、気負わずに室内を楽しく演出することができるスノーフレークは、その真骨頂であるのかもしれない。
伝統の製法に現代のデザインを取り入れることで引き出された、紙そのものの美しさと面白さが、洋の東西を問わず人々を楽しませている。
ライター 石田 純子
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