スマートフォンやタブレットなど、便利な電子機器が増える一方で、
ノートをはじめとするアナログ文具のブームは衰えをみせない。
その中でもひときわ目を引くクロコダイル調のノートは
思いがけない製法で革と見まごう表紙が作られていた。
ここ数年、ビジネスマン向けのノートや手帳は息の長いブームになっている。紙質やフォーマットを改良し、ストイックに機能を追求したものが目立つなか、ひときわ異彩を放つのが「クロコラボ」のリングノートだ。クロコダイル調の表紙と金色のリングでヨーロピアン調に仕上げた外観は、ノートにもファッション性を求める人のアンテナに響くだろう。男女ともに使いやすいユニセックスなテイストも魅力だ。
もっとも本物のクロコダイル革はワシントン条約による輸入規制があり、ノートのような消耗品に利用するのは、是非が問われるところ。しかしこのノートにその心配はない。
なぜなら表紙の素材が革ではなく「紙」だから。シックな色の紙に厚紙を合紙して、本来は革の型押しに使う高圧プレス機でプレスし、クロコダイル調のエンボスをつけた素材なのである。
この素材を開発したのは大澤慶久さん。自身が経営する株式会社アンドカンパニー(東京都豊島区)で、ノートやメモ帳に加工し、「クロコラボ」のブランド名で販売している。
きっかけは名刺入れ用の革をオーダーするために、革加工の本場・兵庫県姫路市のタンナー(革なめし事業者)を訪れたこと。工場に足を踏み入れると、稼働していない「開店休業状態」の機械がいくつかあることに気がついた。
そこで空いていた高圧プレス機で、手近にあった段ボールを遊び半分にプレスしてみたところ、思いのほか美しい仕上がりが得られ、その場にいた技術者たちも面白がってくれたという。
もちろん、この「ちょっとした思いつき」を商品にするまでには、多くの工程が必要だった。表面の質感を向上させるため、複数の製紙会社から何千種という紙見本を取り寄せ、最も革らしく見えるものを探した。一方で試作を繰り返すうち、プレス時に加える熱で紙がわずかに変質し、エンボスに合わせて色の濃淡が現れることもわかってきた。そして、むしろ濃淡があった方が革らしい陰影を表現できるため、濃淡がきれいに出る温度や圧力、プレス時間などを、試行錯誤しながら割り出していったという。
素材が完成してからは、高圧プレス機がイタリア製であることにヒントを得て、ノートやメモ帳のリングを金色にし、「雑誌で言えば『LEON』風」(大澤さん)のイタリアンテイストに仕上げた。
できあがった商品は「クロコラボ」のブランド名を冠して2011年から販売を始め、さらに法人向けのノベルティなど別注製造も行っている。名入れができるのはもちろん、プレスの型を変えれば、クロコダイルだけでなくカーフ調やバッファロー調などと風合いが変えられ、カラーバリエーションも豊富なので、セミオーダー感覚でオリジナル性の高いものを作れるのがメリットだ。
「今回はたまたまタンナーとの協業で商品ができましたが、革業界に限らず、休眠している機械は日本全国にたくさんあるはずです。そしてそこにいる技術者は、機械と自分たちの腕を活かす新しいアイデアを切実に求めています。しかし例えば革の業界だけ、紙の業界の中だけで考えていても、決して新しいものは出てこないでしょう。大切なのは業界をまたいで考え、行動してみることなんです」と、大澤さん。
その言葉を裏付けるように、クロコラボではファイバーや不織布の型押しにも挑戦。さらに業界に類をみない「布」を型押しした新素材を開発し、この秋に発表した。「紙よりはるかに高度な技術とノウハウが必要だった」(大澤さん)という、苦労の末の自信作である。
次々と実現されていく斬新なアイデアの第一歩として「紙」があったのは、その身近さゆえ、扱いやすさゆえだろうか。革だけを扱ってきた技術者に新しい世界を見せたという点で、紙は「身近にいた青い鳥」のような存在だったのかもしれない。
ライター 石田 純子
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