春は芽吹きの季節である。
春の窓辺によく似合う小さなグリーンはインテリアのアクセントにもってこいだが、
それを楽しく演出し、誰でも簡単に取り入れられるようにしたキットがある。
「園芸」のイメージをガラリと変える紙のプランターが、人気を支える秘訣のようだ。
絵本の中から本物の草木が生えてきた!
リアルな「飛び出す絵本」さながらの、驚きとワクワク感をもたらしてくれるのが、この栽培キット「グリーンストーリー」だ。本を模した紙箱のくぼみに保水用のスポンジと植物の種を入れ、水やりすれば、数日後には芽が出て10日ほどで小さいながらも立派なグリーンになる。
この商品群にはほかにも、手紙として送れる「グリーンメール」や牛乳パックで育てる「グリーンディッシュ」、一つの箱に3種類のサラダ用植物を組み合わせ、収穫も楽しめる「グロウサラダ」などがある。どれもプランター代わりの紙の箱に種やスポンジなど必要なものが揃い、キッチンやリビングで手軽に育てられるのが特徴だ。
「あまり植物になじみがない人も、気軽に手にとってグリーンを楽しんでほしい」と、製造・発売元の明和工業株式会社(新潟市)グリーン事業部・ゼネラルマネージャーの小林尚之さんは言う。
実はこの会社、水道管製造で成長したメーカーで、近年では宿泊施設の運営など、サービス事業にも積極的に乗り出している。
その会社が、なぜインテリア用のグリーンを?
「当社のある新潟は米どころですが、近年は後継者不足で耕作放棄地の増加が問題になっています。一方で、自然に囲まれているにもかかわらず、子供たちはテレビゲームのようなバーチャルな遊びに夢中で、外遊びをしなくなってしまった。そのせいか、毎日食べているお米や野菜がどんなふうに田畑で育ち、食卓へ届くのかに無関心なんです。そんな状況に副社長が危機感を持ち、子供たちにリアルな体験をさせる場を作ろうとしたのが、そもそものきっかけでした」(小林さん)
その後、対象を子供だけでなく大人にも広げ、植物に親しむ入り口になるよう、「まず手にとってもらう」「実際に育てて植物を身近に感じてもらう」ことをテーマに、商品開発を進めてきた。
そこで活躍したのが「紙」である。
植物を育てる器に、プラスチックのプランターや素焼きの植木鉢ではなく、紙の容器を使ったのは、誰もが子供の頃から触れ、生活にとけ込んでいる、紙の親しみやすさゆえだった。
「園芸店にあるような専用のプランターや植木鉢は、心得のない人に『植物を育てるのは難しそう』という印象を与えがちです。だけど紙の容器に説明通りセットして水やりさえすれば芽が出る、と聞くと『じゃあ私にもできるかも』と見方が変わりますよね。そういった意味で、紙が醸し出す手軽さや清潔感は、この商品にとってとても重要だったんです」と、明和工業から依頼を受けてコンセプト開発にかかわった株式会社カラーのシラスアキコさんは語る。
とはいえ、紙であるがゆえに苦心した点もあった。
「水やりに対応するため、部分的に耐水紙や薄い樹脂フィルムを貼り合わせた紙を取り入れています。ただし、紙のメリットである『人との距離感の近さ』はとても大事なので、紙の風合いを損なわないように気をつけました」(デザインを担当した株式会社カラー・シラスノリユキさん)
その甲斐あって、2011年の発売後は大きな反響を呼び、販売網も全国に広がった。今年3月からは「もっと植物に親しみたい」という人に向け、「植育(しょくいく)」をキーワードにした日帰り農園体験も実施している。商品が初心者向けなら、農園体験は中級者向け。いずれは本業の「水道」とからめて、水耕栽培で計画的に野菜を育てる植物プラントを事業化するビジョンもあるという。
植物を軸とした地域の問題解決と「植物プラント」という未来の壮大な夢。その最初のステップで「紙」がしっかりと活かされている。
ライター 石田 純子
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