漆で描いたようなぷっくりとした立体的な文様が印象的なブックカバー。
懐かしくも親しみやすいこの「和モダン」な素材は、
紙にちょっとした加工を施したものだという。
そこには日本古来の工芸技法と米国発祥の印刷方式の融合という、意外なルーツがあった。
麻の葉、七宝、勝ち虫(トンボの別称)など、古くから伝わる吉祥文様をあしらった和柄のブックカバー。日本で暮らす私たちにとって懐かしく思いこそすれ、珍しいものではないが、それでもどこか目新しく感じられるのは、この品の独特の風合いが関係しているのだろう。
ぷっくりと盛り上がった文様は漆のようなツヤがあり、日本の伝統色よりややカジュアルな配色に、モダンに再構築された「和」がにじみ出る。素材はマット感のあるやや厚手の色付きの紙で、本に掛けたときのなじみがよく、模様の凸部分によって手触りのよさや滑りにくさが備わり、使いやすく仕上げられている。
このブックカバーの製造・販売を行っているのは、株式会社オフィスサニーという会社である。中小の印刷会社が集積する東京・荒川区に居を構え、印刷とデザイン制作を請け負うが、2年半ほど前からオリジナル製品の企画にも力を入れるようになった。このブックカバーもそうして生まれたオリジナル製品の一つだ。
盛り上がる文様の秘密は「バーコ印刷」という特殊な印刷方式である。これは専用のインキで刷った部分に加熱によって膨らむ樹脂パウダーを振りかけ、500℃くらいの熱を加えると印刷部分が盛り上がり、ツヤが出るもの。
発祥は米国で、名刺の印刷に多用されているが、日本では専用印刷機があまり流通しておらず、珍しい技術といえる。オフィスサニーではそのバーコ印刷機を6年前に導入し、名刺のロゴ印刷などに利用してきた。盛り上げが可能な印刷方式はほかにもあるが、微細な図柄をシャープに再現でき、また盛り上げ部分が摩擦や割れに強く印刷後の加工がしやすいという点では、バーコ印刷が優れているという。
ブックカバーはそのバーコ印刷の新たな活用方法として生み出された。企画にあたり、参考にしたのが、日本古来の伝統工芸技術の「印傳(いんでん)」である。
印傳は鹿革をなめし、漆で模様を描いて作るものだが、高級品ながら日常で使える堅牢さがあり、実用性に富むことから、再び脚光を浴び始めている。
オフィスサニーでは日本の伝統技法たる印傳のエッセンスと、現代の、しかも米国発祥の技術であるバーコ印刷を組み合わせて、紙に漆代わりのバーコ印刷を施すことで「印傳のような紙」を作り出した。色数の豊富な厚手の紙を使い、皮革では出せない色を意図的に織り交ぜた結果、本物の印傳にはない軽やかさが生まれ、現代の生活になじむ仕上がりになったのは面白い。
出来上がったブックカバーは、その落ち着いた柄ゆきや本との相性のよさ、手になじむ質感などが好評で、大型書店の文具コーナーなどで販売されている。また、バーコ印刷を施した紙そのものを「INDEN」と名付けて、ノートの表紙や貼り箱などに広く展開している。最近ではオリジナル柄のオーダーにも対応しているため、ノベルティやブライダルギフトにも引き合いがあるという。
伝統技法と現代の技術で作られた紙の思いがけない組み合わせによって、親しみやすい、誰もが使ってみようと思えるモダンな和の道具が生まれた。
「日々に彩りを添えるものを生み出していきたい」と語るのは、オフィスサニーの代表取締役を務める高橋淳一さん。その願いが、この「INDEN」という紙に投影されている。
ライター 石田 純子
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