手巻きオルゴール」と聞くと、ちょっとレトロなイメージを思い浮かべる。
そのメロディを、穴をあけた紙を使って作り出すのが「紙巻きオルゴール」だ。
紙の扱いひとつでいろんなメロディが再現でき、絵も載せられる。
レトロなだけではない、ポップな表情を併せ持つ、紙巻きオルゴールの魅力とは?
「紙とオルゴール、昔からある物の組み合わせに、メディアの新しい進化の種があるかもしれない」と語るのは杉山三(すぎやまさん)さん。「OTOWA」というレーベルで、紙巻きオルゴールの販売やワークショップを行っている。音楽ならデジタル音源、本なら電子ブックで手軽に入手できる時代に、あえてアナログ感たっぷりのオルゴールに着目した理由を、そんな風に説明してくれた。
手巻きオルゴールは、音階を刻んだ金属製のシリンダーにクシ歯(クシのような形状の金属部品)が触れ合ってメロディを奏でる形式のものが多い。しかし杉山さんが選んだのは、「オルガニート」という、穴あきの紙を組み合わせる構造のもの。紙にあけた穴が、スターホイールというツメ付きの円盤を弾いて音が鳴るので、紙を取り替えて違う曲にしたり、好きな形に穴をあけてそこに現れるメロディを楽しむこともできる。視覚情報をメロディと関連づけることができるという意味では、オルゴールというより「楽器的なメディア」と呼ぶほうがふさわしいのかもしれない。
この考えに共鳴し、新たな企画を持ちかけたのが石崎孝多さんと萱島雄太さんである。石崎さんは過去にフリーペーパーだけを集めた店舗を運営するなど、本や読み物に着目した活動を行っており、また萱島雄太さんは漫画家として、一方向にスクロールして読める電子デバイス用の漫画も発表している。2人は漫画と音楽の新しい可能性を探る試みとして「ミエルレコード」という企画を共同主催しており、杉山さんの活動に興味を持って、声を掛けてきた。
3人が出会って生まれたのが、「紙巻きオルゴール漫画」である。これは紙巻きオルゴールの紙に、活躍中の漫画家によるストーリー漫画を載せたもの。漫画を提供した作家は音楽に合わせたストーリーを構成して作画するほか、画中に現れる図形に合わせて穴の位置を決め、そこから生まれるメロディを楽しめるように「作曲」まで手がけた人もいる。まさに漫画と音楽の融合だ。
できあがった「紙巻きオルゴール漫画」は当初、作品として展示を行うにとどめる予定だったが、発表後の反響が好感触だったことから商品化が決定した。2014年には文化庁が主催する「メディア芸術祭」の審査委員会推薦作品になり、以来、国内外のメディアにたびたび取り上げられている。日本のポップカルチャーを紹介するフェイスブックページに、紙巻きオルゴール漫画の動画が掲載されたときは、再生回数が200万回を超えたという。海外からの反響も大きく、「英語、フランス語のほか、どこの国かわからない言葉でコメントが書き込まれていた」(石崎さん)というほどの広がりを見せている。
動画から流れ出すオルゴールの優しい音色、音楽と共に楽しめる漫画というユニークさが、国境を越えて人々を惹きつけるのだろう。
杉山さんの主宰するワークショップでは、子供から大人まで幅広く参加して紙の穴あけとメロディの再生にチャレンジできるそうだ。「紙を取り入れたことで音楽に触れる敷居が低くなり、また紙に描いた絵や名前を音に変えるクリエイションも気軽に楽しめる」(杉山さん)ことが、子供も大人も魅了する理由だろうか。
見るだけではなく実際に触れて音を鳴らし、紙の上に広がる絵との融合を実感することで、このオルゴールは真価を発揮する。紙と音楽という、誰もが知っているものの意外な組み合わせに、私たちは親しみと新しさの両方を見出さずにはいられない。
ライター 石田 純子
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