バッグやスリッパの素材といえば革や布が思い浮かぶ。
それを紙で作ってみたら……。
破れにくい丈夫な紙に漆で繊細な模様を施すと、
過去に類を見ない新しい表情をもつ品々が出来上がった。
パスケースにバッグ、スリッパなどの日常づかいの品々。これらはすべて同一の素材でできている。ソフトな風合いと目新しさを合わせ持つこの素材は、布でもなく革でもなく、漆で柄を入れた紙なのだという。
製造しているのは和紙産地の山梨県市川三郷町に位置する株式会社大直である。紙は木材パルプとポリオレフィンという合成繊維を原料として、和紙漉きの製法で作られたもの。もともと「破れにくい障子紙」として開発・販売されていたが、驚くほど丈夫、しかも縫製が可能なため、トートバッグなどにも加工できる。
この紙を素材として、「現代の生活に合う和紙」というコンセプトで作られたブランドが「紙和(しわ)」だ。2008年に発足し、紙に風合いをもたせるためにわざとしわくちゃにしてみたことからこの名前が生まれた。
以来、紙和は他にはない紙の表情と実用性の高さから、知る人ぞ知るブランドとして定着し、バッグ、ステーショナリー類、帽子などとラインナップを増やしていったが、その新しい展開としてこの夏に発表されたのが、紙和に漆で柄を入れたシリーズである。
紙に漆をのせる試みは熟練の職人でも経験がなく、奈良の漆職人と大直が共同で技術開発にあたった。そのままでは漆がうまくのらないので、紙にあらかじめ柄と同じスクラッチ(へこみ)を入れておき、さらにスクラッチ部分を毛羽立たせてから漆をのせるという手間のかかる製法だ。工程は印刷の範疇に入るが、機械化はされておらず、手刷りで行う根気の要る作業だという。
「漆職人さんも最初は気軽に引き受けてくれましたが、実際に始めてみると予想以上に難しかったですね。それでも漆で紙に柄入れするのは初めての試みということで、やりがいを感じていただけたようです」と振り返るのは、大直の一瀬愛さん。立ち上げ時からプロジェクトを統括している紙和ブランドのプロデューサーである。
今回の漆柄のシリーズを展開するにあたっては、ユーザーが男性に偏っている紙和を、女性ユーザーにも知ってほしいとの意図をもってあたったという。そのため女性に人気のある北欧デザインを意識して、デザイナー3名のうち2名をフィンランド人デザイナー、残る1名はテキスタイル分野で人気の日本人デザイナーを起用して、三者三様のデザインを挙げてもらった。
なかでもフィンランド人デザイナーのハッリ・コスキネン氏は日本の伝統柄に興味を持ち、参考にしながらデザインを進め、初めて目にする人にもどこか懐かしく感じられるパターン柄を完成させた。
「職人さんやデザイナーさんなどさまざまな領域の人たちと出会い、みなさんが持っている技術や文化的背景を取り入れながら、紙の魅力を発見していくのがとても楽しいんです」と一瀬さん。苦心する場面も多かったはずだが、それも含めてプロセスを大切にしている様子がうかがえる。
こうして出来上がった製品には、繊細な柄ゆきを、漆の光沢感と柔らかな紙の風合いが引き立てる優しい雰囲気が備わった。
この夏から店頭に並んでいるが、これまで目にしたことのない、紙と漆の組み合わせの面白さと親しみやすさに誘われるように、思わず立ち止まり手に取る人があとを絶たない。当初の意図通り女性に好評で、幅広い世代に支持されつつあるようだ。
紙の上で融合した日本の職人の手技とフィンランドのデザインは、それとは知らず目にした人にとっても、新鮮なときめきを感じさせるに違いない。
ライター 石田 純子
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