「紙粘土は本当に紙からできているのだろうか」。
そんな素朴な疑問に始まって、紙を主原料とする紙ねんどを、誰もが簡単に自作できるようにしたキットが現れた。自作した紙ねんどで工作をすれば、より大きな達成感が味わえる。コロナ禍の家遊びグッズとしても注目を浴びた「紙でできた紙ねんど」を紹介しよう。
白い紙を原材料として紙ねんどを自作し、その紙ねんどで工作を楽しめる手づくりキット「ホントの紙ねんど」は2020年6月に発売され、以来、小売店やネット通販を通じてじわじわと販売数を伸ばしている。
その面白さは何といっても、「紙ねんどの自作」という、多くの人にとって未知の体験を気軽に楽しめることだろう。
キットの中身は、細く断裁された紙の束、重曹、クエン酸、デンプン糊で構成されている。
紙の束を水に浸け、重曹とクエン酸を加えて混ぜるとブクブクと泡立ち、紙が柔らかくなる。その紙を細かくちぎって揉み、水を絞ってからデンプン糊を加えてよくこねると、紙からつくられた正真正銘の紙ねんどが出来上がる。出来上がった紙ねんどを好きな形に成形して乾かし、色づけをすれば、紙ねんど作品の完成だ。
一般的な紙粘土は実のところ、パルプが占める割合は全体のごくわずかで、チョークなどの主成分である炭酸カルシウムを加えて作られているという。そのような紙粘土は乾いても重く、堅牢な仕上がりを特徴とするが、「ホントの紙ねんど」は乾くと非常に軽くなり、表面が繭玉のようなモコモコとした素朴な質感に仕上がる。
「ホントの紙ねんど」を企画製造販売しているのは株式会社相馬(東京都江東区)という、法人向けの細かな要望をくんだ調達を得意とする用紙販売の会社である。同社の取扱品の中でひときわ異彩を放つ、一般消費者向けの「ホントの紙ねんど」は、社長の久保田明男さんが社員全員を巻き込んで始めたプロジェクトから生み出された。
プロジェクトのテーマは「紙の新しい可能性」。紙の可能性を広げるモノやコトなど、さまざまな案が出される中、冒頭に掲げた「紙粘土は本当に紙からできているのだろうか」というメンバーの一言がきっかけとなって、「ホントの紙ねんど」の開発がスタートした。
他にない製品だけに開発は困難の連続で、つくりやすく安全な紙ねんどにするために、数え切れないほど試作を繰り返したという。
苦労の末に完成した「ホントの紙ねんど」は、楽しく遊べ、理科の実験のような知育要素もあることから、コロナ禍で親子で楽しめる家遊びグッズとして人気に火が付いた。離れて暮らす祖父母と孫が、リモート画面を共有しながらそれぞれ紙ねんど工作を楽しみ、できた作品を交換するといった利用法もあったという。
行動制限が大幅に緩和された今、ワークショップや学校教材向けにアピールする計画もあり、前途は明るい。しかし、『ホントの紙ねんど』は決して販売の「量」を追うための製品ではないと、久保田さんは強調する。
「『ホントの紙ねんど』を商品化していちばん良かったのは、当社の社員の意識が変わったことです。過去に例のない製品が完成し、反響もあったことから、もっと紙でこんなことができるんじゃないかとか、社員の考え方が広がって自然とアイデア出しができるようになりました。デジタル機器の浸透で紙の需要は減っていますが、世の中には『なくなる紙』と『なくならない紙』があると思うんです。『ホントの紙ねんど』は、紙ならではの手触りやぬくもりが楽しめる『なくならない紙』。焦らず末永く扱っていきたいと思います」と、久保田さん。
社を挙げて真剣に掘り下げたからこそ気づいた紙の魅力を、多くの人と共有することに可能性を見出している。
ライター 石田 純子
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