図書館で借りた本を記帳する「読書通帳」をご存じだろうか。
読んだ本を記録するのに便利なだけでなく、
本に親しむきっかけになったり、成長の記録として人気を博しているという。
実際に導入した図書館を訪ね、その様子を聞いた。
読書通帳とは、読んだ本の履歴を記帳するために使う、預金通帳によく似た横長の冊子である。ATMのような機械に通帳を差し入れると印字がスタートし、借りた本のタイトル・著者名と日付けが記帳されるものだ。
2010年に下関市立中央図書館で導入されたのを皮切りに、全国の図書館や小中学校の図書室でじわじわと導入が進んでいる。
その一つ、東京都にある稲城市立図書館では、2016年7月に読書通帳機を設置し、市内の中学生以下を対象として希望する子どもに読書通帳の配布を始めた。
直前に学校を通じてPRを行ったのも功を奏したのか、反響はなかなかのもの。読書通帳機の前で楽しそうに記帳する子どもたちや、きょうだいで読書通帳に記帳された本の数を競う様子が見られたという。
冊子を差し入れるとカタカタと機械音がしてページに印字される様子も、子どもの興味をそそるようだ。
「読書通帳は図書館へ行く動機付けになると思うんです。ふだん本を読まない子どもが読書を始めるきっかけになるし、もともと読書習慣のある子どもも、自分の読書記録、ひいては成長記録としてこの読書通帳に親しんでくれるだろうと思いました」と、稲城市立中央図書館で係長を務める石井美砂さんは笑顔を見せる。
導入後5カ月の段階で、読書通帳を手に入れた子どもは3000人近く。そのなかには初めて図書館で登録を行った子どもが2割近く含まれており、予想通りに「ふだん本を読まない子ども」が、読書通帳に興味をもって図書館を訪れたことがわかる。また児童書の貸し出し冊数も導入月の7月には前年同月と比べて27パーセント以上増え、数字のうえでも大きな伸びを示した。
ところで稲城市立図書館では、読書通帳を導入する前から「よむよむノート」という、子どもが自分で読んだ本を書き込めるノートを配布していた。通帳よりも大きなサイズのA5判で、読んだ本とその頃あった出来事を書き込む欄を設け、日記風に使えるようにしたものだ。
こちらは書き込み式なので、図書館で借りた本以外も含めて読んだ本をすべて記録し、自分だけの読書録を作れるという別のメリットがある。そのため、読書通帳の導入後も変わらず配布を続けている。
一般に図書館はプライバシー保護のため、利用者が過去に借りた本の情報を図書館側に残すことはしていない。そのため読書履歴の管理や保存は、利用者自身の手にゆだねられている。この読書通帳機でも、借りた本を過去にさかのぼって記帳することはできず、そのとき借りている本だけを記帳する仕組みになっている。
だからこそ、読書の記録が一冊の通帳にまとまる楽しさは格別だ。一冊の読書通帳に記帳できる本は216冊にものぼる。通帳がいっぱいになれば、達成の証しとして市のキャラクター「稲城なしのすけ」のシールが貼られる。シールを貼ってもらい、2冊目の通帳に「繰り越す」ときの高揚感はどれほどのものだろう。
読書通帳に熱心なのは小学校低学年の子どもたちが中心だが、配布が始まってまもなく、0歳の赤ちゃんのために読書通帳を受け取っていったお母さんがいたという。
「お母さんが読み聞かせる本も含め、お子さんが生まれて初めて触れる本から順に記録を残していきたいということでした」(石井さん)
本に触れた記録はその人の思い出でもある。そのままでは忘れてしまう読書の履歴も、紙に印字すれば、大切な記憶をのちのちまで残すアルバムと同じ役目を果たすに違いない。
人を読書へといざない、その思い出を残すという役目を、紙の通帳が引き受けている。
ライター 石田 純子
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