大学という「場」が変わりつつある。
校地の一部や学内施設を開放し、教育と研究の場をさまざまな角度から「開く」取り組みが盛んだ。
ここではそれを象徴する、紙管を取り入れたレストランを紹介しよう。
近年の大学では、洒落たカフェやレストランを敷地内に設け、一般に開放していることがある。しかし、これほどまでに特徴的で、教育内容とリンクしている例は珍しいのではないか。
芝浦工業大学・豊洲キャンパス(東京都江東区)にあるレストランは、紙管をふんだんに用いたインテリアが目を引く。天井や間仕切り、カウンター下などの内装のほか、椅子やテーブルなどの家具にも大小さまざまな紙管が用いられ、素朴にも未来的にも感じられる新感覚の空間を生み出している。
滑らかで温かみのある紙管は触れると心地よく、紙が音の反響を適度に抑えるのか、BGMや人の話し声が柔らかく聞こえる。江戸組子を連想させる天井や間仕切りの意匠はとりわけ美しく、紙管にこのような使い方があったのかと驚かされる。
設計したのは坂 茂(ばん しげる)さん。世界的に評価されている建築家で、紙管を用いた仮設住宅や災害避難所で知られる。坂さんが同大学の建築学部で特別招聘教授を務めていることから、このレストランと、隣接するカフェの設計を担当した。
建設計画に立ち会った芝浦工業大学事務局長・満重信之さんは、坂さんへの依頼にあたり、紙管の耐久性が気になって尋ねてみたという。
「坂先生によれば、紙管は防水加工をすれば恒久的な建物に使ってもまったく問題ないそうです。それなら本学が力を入れているSDGsの実践にも合致するので、ぜひということでお願いしました」(満重さん)
計画段階から関係者の興味の的となった紙管の建物は、建築学部やデザイン工学部の学生たちも設計を手伝い、2022年秋に完成した。以来、学生や教職員はもちろん、地域の人々も日常的に訪れる憩いの場となっている。
普段の食事や休憩のほか、学会の打ち上げやゼミ・研究室のメンバーによる食事会など、ちょっとしたイベントにも対応できる点が好評で、見学に訪れる建築事業者や店舗運営者も多いという。また紙管が使われているという珍しさからか各種媒体で取り上げられるなど、広報活動にもプラスに働いている。
「『工業大学』と聞くと、油まみれになって機械に向き合う様子を想像する人が多いかもしれません。しかし本学はそれだけでなく、最先端の科学を取り入れ、さまざまな素材を扱う、幅も奥行きも広い教育を行っています。だからこそキャンパスの一部を開放し、媒体なども通してこの紙管の建物をさまざまな人に知ってもらい、古い固定観念を取り払って工業の面白さに目覚めてほしいのです」(満重さん)
同大学では創立100周年を迎える2027年までに、現在26.6%である女子学生の比率を30%以上にするという目標を掲げている。また、理工系私立大学で唯一、文部科学省による「スーパーグローバル大学」の認定を受けており、海外留学生の受け入れに注力している。
それだけに、多様な若者に同大学の存在を知らしめ、志望してもらうきっかけにつながる「紙管のレストラン」への期待は高い。
大学はもはや象牙の塔ではない。教育や研究を地域・社会・世界に開き、取り込んでいく柔軟さをもった存在になりつつある。それを示すため、慣れ親しんでいるはずなのに意外な使い方ができる紙が、さらなる知への入り口を広げ、探究心を育む存在として、人々を呼び寄せている。
ライター 石田 純子
写真 ©︎Hiroyuki Hirai
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