「耐洗紙」をご存じだろうか。クリーニングのタグに使われる、洗っても破れない丈夫さと普通の紙と同じ筆記性をもつ紙のことだ。
その耐洗紙から、アウトドアやキッチンで役立つメモパッドが出来上がった。
てのひらに乗るスマホ大のメモパッド。中央がゆるやかにくびれていて握りやすく、表紙のクラシックなデザインと相まって愛着のわく装いをしている。だが、このメモパッドの魅力はそれだけではない。
「濡れても使える」と聞いたら驚くだろうか。見た目はごく普通の紙だが、ポケットに入れたままうっかり洗濯しても大丈夫。雨天にさらされるアウトドアや、水を使うキッチンやガーデニングの傍らで使うのに向いているという。
このメモパッドは表紙と中紙に「耐洗紙」を用いている。耐洗紙はクリーニングのタグに使われる紙で、名前の通り水で洗っても破れない丈夫さがある。紙が濡れていても鉛筆や油性ペンで書くことができ、内容が消えずに残るので、雨天時や水辺でもストレスを感じずにメモが残せる。
メモパッドの製造元はクリーニング資材を取り扱う株式会社共生社(兵庫県尼崎市)で、企画とデザインは株式会社ハイモジモジ(東京都三鷹市)が担当した。
耐洗紙を使った新製品を作ろうという目標を掲げ、両社によってさまざまなアイデアが議論される中、「雨に濡れても使える耐洗紙のメモパッド」を提案したのは、共生社社長の槙野雅央さんだった。登山を趣味にしている槙野さんは、変わりやすい山の天気にも対応し、確実に記録を残せるメモパッドを望んだのである。
とはいえ、それを聞いたハイモジモジ代表の松岡厚志さんは、難題だと感じたという。
「店頭にはすでに多くのメモパッドやノートが並んでいます。その中でどうやったら耐洗紙のメモに存在感を持たせられるか。見る人に新しさを感じてもらい、手に取ってもらえるのか。そこに知恵を絞る必要があると思いました」(松岡さん)
そこで他のメモパッドにはない個性として考案されたのが、握りやすいくびれのある形状だった。
「くびれのある形状にしたことで、表紙と中紙がズレないよう、ぴったり揃える方法を編み出さなくてはならなくなり、製本の難易度が一気に上がってしまいました。でもメモパッドの売り場で埋没せず、商品の特徴をアピールするには、『握りやすいからアクティブに使える』と一目でわかるこの形が必要だったんです」と、デザインを担当したハイモジモジの松田綾子さんは言う。
それが耐洗紙でできた「タグド メモパッドシリーズ」の原型となった。のちに吊り下げ用の金具を通すリングホールを付けた「タグド ライフギア」もラインアップに加わり、槙野さんが望んだ「登山で使える」特徴がより強調されることになった。
工夫を凝らしたのは形状だけではない。印刷面が濡れても色移りやにじみが起こらないように、表紙の絵柄や中紙の罫線は「樹脂インク」という耐水性のあるインクを使用している。また綴じ部分は強力な糊を使うPUR製本という技術を採用し、濡れてもページがバラバラにならないよう配慮されている。さらに100枚の中紙をコンパクトな一冊に収めるために、従来品より薄手の耐洗紙をこのメモパッド専用に特別に抄造した。
発案から発売までに検討と試作を重ねて1年かかったというこのメモパッドは、アイデアのヒントになった登山のほか、ゴルフやマリンスポーツの場、さらにキッチンで使うレシピの記録にも使いやすいものに仕上がった。
記録を残し、のちのちまで確実に保存したい。たとえハードな環境でもそんな願いに応えてくれる紙があれば、体験の感動を自分の手で記し、次のステップへと踏み出す可能性を広げてくれるだろう。
ライター 石田 純子
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