当社グループは、気候変動が森林資源の減少や地球温暖化によるリスクの増加、財務的負担を引き起こす可能性があると認識しています。また、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減を企業の責務と捉え、気候変動をマテリアリティとして特定しています。気候変動への対応は、温室効果ガス排出量が多い製紙加工事業を中心に、以前から省エネルギー化および非化石由来のエネルギーを活用した温室効果ガス排出量削減に取り組んでいます。2024年度においては、段ボール製紙事業会社2社において水力由来の再生可能エネルギーへの切り替えや、省エネ設備への更新および生産効率の向上などを実施しました。また、当社においても、非化石証書の購入によるScope2の全量オフセットを行い、基準年からの当社グループの削減率は概ね41%となっています。当社グループは、2024年5月に策定したグループ温室効果ガス排出量削減目標に基づき、2050年カーボンニュートラルを実現するべく取り組みを積極的に進めていきます。
当社グループは、気候変動への対応がグループ全体として喫緊の課題であると認識し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言へ賛同し、「TCFDコンソーシアム」に参加しています。また、気候変動が当社グループ事業に及ぼすリスクと機会についてシナリオ分析を行い、紙・板紙卸売、製紙加工、環境原材料、不動産賃貸、各々の事業セグメント※についてTCFDが推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に基づき、開示しています。
当社グループは、「環境方針」のもと、気候変動への対応、温室効果ガスの排出削減への取り組みをより一層推進し情報開示を進めていきます。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討する目的で設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース」です。世界的な課題である気候変動は、企業にとっても深刻な影響をおよぼすファクターになりつつあり、中長期的な事業活動を行う上での“リスク”あるいは“機会”へと変化しています。このような状況下、企業が持続的な成長を果たすためには、気候変動というファクターを経営戦略に織り込む必要が出てきています。TCFDの最終報告書では、気候変動によるリスクおよび機会が経営に与える財務影響を評価し、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目で開示することを推奨しています。
TCFD賛同企業や金融機関等が一体となって取り組みを推進し、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論する目的で設立された組織です。
当社は、サステナブル経営のより積極的かつ能動的な推進に向け「サステナビリティ戦略会議」を設置しています。「サステナビリティ戦略会議」は、取締役会の監督のもと、グループ全体の気候変動に関する方針などの策定や戦略立案、ESG課題の解決・目標達成に向けたマネジメントを所管しており、TCFD提言に沿って、当社グループのリスク・機会の分析および対応策の検討を実施しています。「サステナビリティ戦略会議」の議長は代表取締役社長が務め、気候変動に関わる経営判断の最終責任を負っています。同会議にて検討、協議された事項の進捗状況などは、定期的に取締役会に報告されるとともに、重要な事項については取締役会で決議されます。
当社グループは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などの専門機関が作成した、気温上昇が1.5℃(2.0℃)に抑制される場合および4℃以上になる場合の2つのシナリオを用いて、紙・板紙卸売、製紙加工、環境原材料、不動産賃貸の4つの事業分野について、気候変動に伴うリスクと機会の抽出を行いました。気候変動がもたらすリスク・機会は、低炭素社会への移行に伴うリスクと物理的な影響に分類され、これらのリスク・機会を事業戦略に織り込むため、財務影響を短期・中期・長期の観点で評価しました。
| 分類 | 当社への影響 | 対応策 | 影響度 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| リスク | 移行 | 政策・法規制 | 製紙事業における、炭素税の引き上げに伴う操業コストの著しい増加 |
|
大 |
| 評判 | 気候変動対策の遅れに伴う企業価値の下落、ステークホルダーの信頼失墜などによる、売上収益の減少、資金調達への影響、ブランド力の低下 |
|
中 | ||
| 物理的 | 急性 | 風水害による拠点、設備、在庫、不動産物件などの甚大な被害 |
|
中 | |
| 風水害によるサプライチェーンの途絶に伴う事業停止および売上収益の減少 |
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中 | |||
| 慢性 | 海面上昇による臨海拠点の高潮など浸水被害の影響 |
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中 | ||
| 機会 | 市場 | 電化の進展に伴う電子部品関連機能材の需要増による業績への寄与 |
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中 | |
| 森林認証紙・再生紙など環境配慮型製品の需要増による業績への寄与 |
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中 | |||
| 脱プラスチック化の進展に伴う紙製品の需要増による業績への寄与 |
|
中 | |||
財務インパクトに関するシナリオ分析の結果、炭素税の導入が当社グループの製紙事業を中心に大きな影響を与えると想定しています。一方、温室効果ガス排出量の削減により、その影響を軽減できると考えています。
物理的リスクでは、洪水・台風といった異常気象による国内グループ主要拠点の被害想定額は、1.5℃(2℃)および4℃シナリオで2~6億円程度と試算しています。なお、当社グループのお取引先が甚大な被害を受けた場合、サプライチェーンにおける工場の操業停止や製品および原燃料などの輸送が寸断される可能性があり、試算額以上の被害が想定されます。
| 項目 | リスク | 分析内容 | 財務インパクト(2050年) | |
|---|---|---|---|---|
| 4℃シナリオ | 1.5℃(2℃) シナリオ |
|||
| 炭素税 | 移行リスク | 炭素税導入による影響 | - | -54.05 億円 ※2 |
| 電力価格 | 移行リスク | 電力価格変化による影響 | +2.3 億円 | -2.9 億円 |
| 洪水被害 | 物理的リスク | 年平均の洪水被害額 | -5.1 億円 | -1.7 億円 |
| 高潮被害 | 物理的リスク | 年平均の高潮被害額 | -0.3 億円 | -0.1 億円 |
| 営業停止損害(洪水) | 物理的リスク | 年平均の営業停止損害額(洪水) | -0.8 億円 | -0.3 億円 |
| 移行リスク | IEA NZE | Net Zero Emissions by 2050 Scenario (NZE) CO2排出量を2050年までにネットゼロにするシナリオ |
|---|---|---|
| IEA SDS | Sustainable Development Scenario (SDS) パリ協定で定められた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を完全に達成するための道筋を分析したシナリオ |
|
| IEA APS | Announced Pledges Scenario(APS) 未実施のものも含め政府の発表済み公約が仮にすべて実施された場合を想定した、各国の野心を反映したシナリオ |
|
| IEA STEPS | Stated Policies Scenario(STEPS) 世界で公表・実施されている政策イニシアティブなど、各国政府の現在の計画を組み込んだシナリオ |
|
| IEA B2DS | Beyond 2 Degrees Scenario (B2DS) 2060年での気温上昇が1.75℃を50%の確率で超えないシナリオ |
|
| 物理リスク | IPCC RCP2.6 | 産業革命前に比べて2℃程度の上昇が見込まれるシナリオ |
| IPCC RCP8.5 | 最も気温上昇が高い4℃シナリオ |
| 項目名 | 基準 | 単位 | 現在 | 2050 | 出典 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4℃ | 2℃ | 1.5℃ | |||||
| 炭素価格 | 先進国 ネットゼロ宣言あり |
USD/t-CO2 | 0 | 0 | 200 | 250 | IEA WEO 2022 |
| 電力価格 | 日本 | USD/MWh | 216 (2018) |
203 (2040) ※ |
232 (2040) ※ |
- | IEA WEO 2019 |
| 洪水発生倍率 | 日本 | - | - | 4 (2040) ※ |
2 (2040) ※ |
- | 気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言(国土交通省) |
| 高潮発生倍率 | 日本 | - | - | 2 | 1.2 | - | 気候変動影響評価報告書(環境省) |
「サステナビリティ戦略会議」は、グループ全体での気候変動に関するリスク・機会の特定、対応計画の策定、サステナビリティ推進本部を中心とした対応組織への指示、進捗の管理を行い、取締役会に報告します。取締役会は報告内容について承認もしくは改善指示を出し、適切なリスク管理が行われていることを監督します。また、サステナビリティ戦略会議にて審議された気候変動関連のリスク事項は、「リスク管理委員会」「OVOLサステナビリティ推進委員会」「OVOL環境・安全委員会」に指示され、グループ全体のリスク管理に反映されます。
気候変動への対応として「日本紙パルプ商事グループ温室効果ガス排出量削減に関する中長期目標」を策定し、2030年度までに2019年度比で50%の削減、2050年カーボンニュートラルの実現を目指しています。現在、2030年の中間目標達成に向けて、グループ全体にて、購入電力の再生可能エネルギーへの切り替え、DX化などによる生産効率の抜本的改革などScope1・2の削減に向けたさまざまな施策に取り組んでいます。2024年度においては、段ボール製紙事業2社が、購入電力を再生可能エネルギーへ切り替え、当社においても非化石証書の購入によるオフセットを実施しました。その結果、グループ全体でのScope1・2の排出量は、2019年度比で約41%削減しました。また、すべての連結グループ各社において、GHG削減目標とアクションプランを策定しており、2030年度50%削減の目標達成に向け、さまざまな施策および投資を行っていきます。
当社は、SBT(Science Based Targets)認証の取得に向けた取り組みの一環として、今後Scope3における温室効果ガス排出量の削減目標、および削減施策の策定に取り組んでいきます。
[関連リンク]
Premier Paper Groupが、各拠点への太陽光パネル設置を推進
英国におけるグループ会社であるPremier Paper Groupは、持続可能な経営の一環として、同社事業拠点への太陽光パネル設置を進めています。2025年末までに設置完了予定で、再生可能エネルギーへの移行により、環境負荷の軽減と英国のグリーン経済への貢献を目指しています。
この取り組みは、同社の包括的なサステナビリティ戦略の中核を成すものであり、紙業界全体における責任ある資源利用と環境負荷の最小化を推進しています。最初の5拠点での導入により、年間約547,500kWhの電力を創出し、CO2排出量を年間257トン以上削減する見込みです。
Japan Pulp & Paper(ドイツ)がEcoVadis社サステナビリティ評価でゴールドメダル獲得
ドイツにおけるグループ会社であるJapan Pulp & Paper GmbH(ドイツ・デュッセルドルフ)が、EcoVadis社による2023年のサステナビリティ評価でゴールドメダルを獲得しました。
EcoVadis社は企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組みを評価する国際的な機関で、評価は「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野にわたります。
Japan Pulp & Paper GmbHは、2022年にブロンズメダルを初めて獲得、サステナビリティに関するさまざまな取り組みを強化するなかで、2023年にはシルバーメダルを獲得、そして今回、上位5%に入るゴールドメダルを獲得しました。
日本紙パルプ商事グループは、今後もサステナビリティへの取り組みを進め、経済価値と社会価値を両立する持続可能な事業活動を目指します。
単位:万t-CO2
| 項目 | 2023年度 (万t-CO2) |
2024年度 (万t-CO2) |
|
|---|---|---|---|
| 購入した製品・サービス | 756.4 | 773.4 | |
| 資本財 | 1.4 | 1.2 | |
| エネルギー関連活動 | 2.4 | 3.6 | |
| 輸送、配送(上流) | 79.0 | 140.0 | |
| 廃棄物 | 0.0 | 0.0 | |
| 出張 | 0.0 | 0.0 | |
| 従業員の通勤 | 0.2 | 0.2 | |
| リース資産(上流) | 0.0 | 0.0 | |
| 輸送、配送(下流) | 1.4 | 2.3 | |
| 販売した製品の加工 | 42.2 | 42.5 | |
| 販売した製品の使用 | 0.1 | 11.6 | |
| 販売した製品の廃棄 | 47.9 | 237.8 | |
| リース資産(下流) | 2.0 | 2.0 | |
| フランチャイズ | 0.0 | 0.0 | |
| 投資 | 0.0 | 0.0 | |
| Scope3合計 | 933.1 | 1,214.6 | |